桜の記憶 ~その参

 

ピカピカと誇らしげに輝く
甲にストラップのついたおろし立ての赤い靴。

レースのふち飾りがついた真っ白な靴下を履いた両足を滑り込ませ
ポンっと
弾むような調子で立ち上がる。

そのはずみで風をはらんでひらりと揺れる
姉とそろいの桜色の小花刺繍が可憐なワンピース。

当時、「和光」の最上階で
洋服を誂える家庭は少なかったはずだ。

子供心に
それがどんなに贅沢で特別なことなのか
まわりの大人たちの自分たちへの接し方で気がついてもいた。

その居心地の悪さも
すこしばかりの誇らしさも
寝物語に毎夜のように
祖母にせがんだ、「シンデレラ」のおはなしのようで
「どうか夢でありませんように」と
ひたすら願った。

小学2年生のとき
裏の新築の洋館に泊まったあの日。

初めて味わった
たっぷりのマーガリンが塗られた「トースト」とただ苦いだけだった「コーヒー」の香り。

トランポリンのように弾むフランスベッド。

ふんわりと鼻腔をくすぐられるおしろいの匂いのする「ママ」と呼ばれていたおばさん。

すべてが
いつの頃からか自分の手の中に転がり込んできたのだ。

それは
とりもなおさず
日本の高度経済成長期の真っ只中で
その波に乗り
休むことなく
懸命に走り続けた「父」と「母」たち世代の勲章だったにちがいない。

精力的にそして極めて順調に事業を拡大させていく
男らしく頼れるちょっと二枚目の夫。

自分の思うままに
丁寧な包装を施したような娘たち。

着々と実現されていくおおきな夢。

贅沢とはきっと無縁で育った母にしてみれば
華やかで華麗な特別誂えの娘たちの晴れ着は
許されることのなかった幼い頃からの憧れと
自分への賛美だったのかもしれない。

桜の記憶

 

久月さんの小金井の桜12 – 写真共有サービス 「写真部」 byGMO

4 comments Add yours
  1. 死ぬ???んな訳ないじゃんよ? 縁起でもない。。。
    ねこもりやは永遠不滅よーん。
    じゃあね?ん♪

  2. 同じく、読んでますよ?。
    それもとても楽しみにしています^^
    書き終わると死んじゃうといけないので、書き続けてください!?・・・冗談です・・・(´ー`)

  3. 毎回しっかり読んでますよぉ?w
    心の中の思い出や何かを、だれかに聞いてもらえると、なんだかホッとするんだよねぇ?^^b
    大丈夫、安心してください^^b

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