桜の記憶 ~その拾

 

父が 
いつもの場所で
いつもの様に
いつもよりいっそう身を屈めるようにして
新聞を読んでいる。

 

この世代にしては珍しい長身が
時として父をこのうえなく若々しく見せるその背中は
こうして
早朝の薄明かりの中で出会うと
確かに明らかな老いを見せ、
父の歩いてきた道程の長さと深さを想像させる。

 

その背中に抱きついて
「ありがとう」と言いたい衝動を
いつもの甘え下手の私がそっと押し戻し、
「おはよう」と
なんでもないフリでやり過ごす。

照れたときの癖の
左頬をちょっとゆがめて笑う困った顔も
年々とおくなった耳を
「聞こえる」と言い張る時のすこしムッとした表情も
とてもとても
愛しい。

 

子供の頃、
この父のこんな姿をみたら
きっと幻滅したのかもしれない。

父親としての威厳や怖さ。

それがわたしにとっての
この父の全てだった。

こんな子供のような優しい顔をする父親になるには
この父の人生の道程の全てが
きっと
必要だったのにちがいない。

あの頃の父と同じ年になって
あの頃の父が随分と若かったことを改めて思い知る。
桜の記憶

Bonnie?さんのさくら、だいすき。 – 写真共有サービス 「写真部」 byGMO

One comment Add yours
  1. 素敵です。
    お父さんのこと、大好きな気持ちがこちらにも伝わってきます。
    なかなか素直な気持ちって恥ずかしくていえないですよね。

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