桜の記憶 ~その壱

 

裏の田圃に面した六畳間の
日のあたる窓辺で
ちいさくなった背中をいっそう丸めるようにして
足の爪を切る。

下着姿で一心に
まるでそのことだけが生きがいのように。

15で奉公に出、
修行を重ね
自分の城をもった。

26歳で家庭を持ち初めて人の親になり
すべての情熱を
愛しい家族と
高度成長期の日本の未来に注いだだろう30年。

 

この父の人生のまんなかの30年は
それは呆れるほどあっけなく
そして
あとかたもなく消えたのだ。

 

ひとは
本当に悲しいときほど泣けないものだ。

 

向かいの家の淡桃色をした吉野桜のはなびらが
ひらりひらり
楽しげに
焦らすように
右へ左へと踊りながら
あいもかわらず熱心な
父の左の肩にそっととまり
すこし揺れて
するりと落ちた。

桜の記憶

SR134さんのさくら道 – 写真共有サービス 「写真部」 byGMO

One comment Add yours
  1. こんばんは。
    さばちゃんはバランスが取れたことによって落ち着いているのでしょうか?
    あんまりびくつくと精神的にも良くないでしょうから・・・。
    25歳の猫は晩年目が見えませんでしたからびくつかせないように驚かせないように・・・、としていたことがありました。
    触るときは必ず声をかける、とか・・・。
    さばちゃん、元気で。

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