桜の記憶 ~その八

 

ある日を境に
家にいることが多くなった母。

父と一緒になって以来、
一日中、家にいることなどなかったはずだ。

それほど忙しく働いていた母が
毎日のようにそばにいる。

子供だった私は
そのことを少し不思議に思いながらも
ただただ、嬉しかった。

同級生と同じように
学校から帰れば母がいて
「お帰り。」と迎えてくれる。

そんなことが
無性に嬉しくて嬉しくて
その頃の母の気持ちを察することなどできなかった。

いま思えば、その時期は
少しづつ、
人員整理をしていた時期だったのだろう。

「お母さん、お母さん」
とじゃれつく子供の私は
どれだけ鬱陶しかったことだろう。

 

騒動の中、
バタバタとあわただしく高校受験を終え
私は中学校を卒業した。

抱き合って別れを惜しんでいる同級生のなかにあって
ひとり、涙も流さず
どこか晴れ晴れとした顔をした私は
ほんとに可愛くないひねくれものに見えたことだろう。

母や父の気持ちを考えるよりも
ゼロから出発するまっさらのこれからに
ワクワクするような
純粋な期待だけがあった。

校庭の九分咲きの桜は
すべてをリセットできる期待にすこし微笑んでいるわたしを
祝福するかのように
力強い生命力にあふれていた。
桜の記憶

凛凛さんのさくら~~~♪ – 写真共有サービス 「写真部」 byGMO

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